利根川の民謡
〈下総は唄の国〉



利根川に岐阜の民謡「おばば節」


伝えたのは加納久右衛門が寛文のころ


第2章 「たこ打ち」作業とは

 堤防工事の作業のひとつに「たこ打ち」があります。「おばば節」は、この仕事でうたわれていました。
「たこ」は大別して2種類あります。堅い木の幹を胴切りして、これに杉の4本の細い丸太を打ち付けて持ち手にしたもので、これを「四つ脚だこ」とか「四本だこ」などといいます。家を建てる時、その土台下を固めるにはたいへん重宝な道具で、昔の農家にはたいがい所蔵されていたものです。これは、杭を打つ時にも用いられ、その時は、胴を上にして4本の手を下に向けて使いました。江戸時代の河川工事の様子を伝える絵には、このようすがたびたび描かれています。

 またこれとは別に利根川の河川工事では「石だこ」もよく使われました。茨城県利根町の歴史民俗資料館に展示されている「石だこ」は工事で実際に使用されていたもので、これを見ると、材質は花崗岩、形状は石臼状です。この周囲に溝を設けて、綱をつけるための金輪がはめこめられております。この金輪に4個所のリングを溶接して、茗荷藁や麻を三つこりした綱を二つ折りにして結びつけられました。したがって、リング1個所から、2本ずつの綱が張られることになり、合計8本の引き綱がつくことになります。この8本の引き綱をタコの脚にみたてて「石だこ」と呼ぶのだといわれています。

 茗荷藁は、一般には聞き慣れない材料かと思われます。これは、土用に茗荷(ミョウガ)を刈り取って、太陽によくあてて乾かし、時には、草幹を四つ割りしたりして、乾燥したもので、綱の材料として重宝されたといいます。じっさいに作ってみると、生の茗荷からは予測できないような、手にやわらかくて、かつ丈夫な縄をなうことができました。
 三つこりというのは、3本よりの綱のことです。

 これらの「たこ」を用いて、地を固めたり、杭を打ったりする時にうたわれたのが「たこ突き唄」とか「たこ打ち唄」といわれていたものであります。曲数もかなりあって、利根川のものだけでも10曲をこえるでしょう。「おばば」はそのうちのひとつというわけです。
 同時に、この「おばば節」は、一般に「地固め唄」と呼ばれ、利根川における河川工事の仕事唄を代表するものとされております。

 たこの打ちは、堤防の天場など平らなところを固めるものです。もっとも利根町押付地先の利根川堤防では、堤防の法面、つまり斜面の部分を打っている写真が残されていますから、平なところの地固めだけだ、と限定しては間違うこともあるかと思われます。
 8人の仕事衆がそれぞれ、綱を持って、唄に合わせて引き上げては、石を地面に落して、土を固めて行きます。これが「たこ打ち」という作業です。

芦原修二(2005年)


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制作・監修=利根地固め唄保存会理事・芦原修二

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