The selection of the tansetsu
selected by Toshio Suda
すだとしお選
短説百選『百葉』
One hundred works
”HYAKU-YOU”

かつて夢の中に見ていた「百葉集」が現実になった。
さまざまな人の百葉集がいつか短説の万葉集になるだろう。
芦原修二

短説が生まれて二十年に近づいている。
すだとしおの記憶として、百の短説を選んだ。
短説に拘わった人によって、それぞれの百選があるものと思う。
年代順ではない百選もできるだろうが、今回はその方法を取らなかった。
それは、短説の変化−作家の変化も含めて−を感じたいからである。

平成十五年六月 短説の会・創立同人/すだとしお

1. はじまり

短説が昭和六十年に始まり、昭和が終るまでの間に書かれた作品の中から、二十篇を選んだ。
年鑑短説集が『旅のはじまり』と題されたように、初期短説群である。
本文三十六行より短いものも含まれている。
現在参加されていない人の作品を、この章以降も選んである。

1 おんぶ行者 芦原修二 2 ポタポタ 原 葵
3 症侯群 五十嵐正人 4 鯨ビルの住人 河江伊久
5 砂食い すだとしお 6 蝶むすび 西山正義
7 瑠璃色硝子玉 向山葉子 8 芦田みゆき
9 舵輪 センナヨオコ 10 ガラタ橋 小林 稔
11 就寝★儀式 古川珠実 12 鈴木くにじ
13 八百屋お七 木口正志 14 犬と女房 高橋幸生
15 叫び 矢野 渡 16 突如発声症 相生葉留実
17 世にふるも 大井戸 辿 18 飛蟻とぶや 中野沙恵
19 水の音 井上脩之助 20 澄江堂−河童図 小川和佑


2. 乗合船として

昭和から平成に入り、二年九月に茨城県藤代町で、三年十月には埼玉県上尾市で座会が始められる。
年鑑短説集『乗合船』 『海の雫』が刊行されたのは平成元年と二年である。
つまり座会が増える前の作品群ということになる。その中から十四作を選んだ。
乗合船から下りていく人、乗船してくる人、その風景が見えてくる時代でもあった。
芦原修二が乗合船と年鑑を名付けた時、多くの人が乗船してくる予感を抱いていたのかもしれない。
まだ藤代でも上尾でも座会は始められていなかったのだから。(この章以降も退会された方も掲載する)

21 トロッコ すだとしお 22 小春日和の庭で 河江伊久
23 ルカーチェフ 芦原修二 24 めばえ 金子 敏
25 車内 相生葉留実 26 茂草鉄道 向山葉子
27 婆っぱが見た 小滝英史 28 四郎 福田政子
29 鏡の前で 木口正志 30 セイジの魂失い 原 葵
31 雨の日の贈り物 水南 森 32 階段 小林 稔
33 ホメオスターシス 森林敦子 34 〈人生岐路〉について 斎藤正敏


3. 螺旋

『螺旋の町』『函中の函』から十四作を選ぶことにする。
この辺りから作品の広がりが作家の数も含めてインフレーションの世界へと入っていく。
しかし年鑑での点盛りはまだなされていない。つまり年間天を選んでいるわけではない。
当時それをしたら何が選ばれるのだろうか。
全国規模の座会も東京座会百回記念座会からであり、それは次ぎの章からの事になる。

35 犬と少年と郵便夫 芦原修二 36 抜け穴 秋葉信雄
37 つながれた声 相生葉留実 38 望遠鏡の少年 すだとしお
39 柔道耳 田中睦枝 40 オートバイ 須藤京子
41 嫉妬 喜多村蔦枝 42 お戒壇めぐり 五十嵐まり子
43 うさぎのウインク 川嶋杏子 44 こぶつき 宮 禮子
45 母の声 有森 望 46 ボサ 栗原道子
47 迎え火 佐々木美千代 48 センチメンタルジャーニー 米岡元子


4. あふれくるもの

この年代、年鑑(単行本)が計画されたが、出版されないままになってしまった。
五月号が年鑑として編集されるまでに時間があった。
その問にも作家も作品も増えていく。通信、東葛、関西と増え続けていく。
そこには初期の短説の世界とは違った作家が各々の世界を見せてくれるようになっていく。
この時代から十七作を選んだ。「秋霖」は、百回記念座会の天になった作品である。

49 秋霖 喜多村蔦枝 50 蜜柑 瀬崎 祐
51 殻こもり すだとしお 52 天井 吉田龍星
53 怪談 道野重信 54 くりぬき女 秋葉信雄
55 館 としお 56 ピンク鼻 錦織利仁
57 『クサリ』 杉谷康代 58 シズコ 寺山克枝
59 ワッカノナゾトキ山 米岡元子 60 民江 糸井幸子
61 大往生 小池ふさ 62 あさり 川嶋杏子
63 海坊主 相生葉留実 64 洗い髪 川上進也
65 金魚 芦原修二


5. 扉の向こうへ

平成十年以降、一年単位で年間の代表作が選ばれるようになった。
以後、現在までの作品の中から三十五作を選んだ。

66 背後霊 岩谷政子 67 盆まつり 向山葉子
68 石川正子 69 ホットケーキ 古川身江子
70 道程 吉田龍星 71 三角クジ 糸井幸子
72 自転車の人 相生葉留実 73 雨中 田中睦枝
74 ミルクココア 小滝英史 75 女ひとり 桂 千香
76 ほや 中川至津江 77 その女 園田やよい
78 ミミズ 関口十至 79 握手 安村兆仙
80 座席 大西頒子 81 エスティマ ルシーダ 五十嵐正人
82 生け花 喜多村蔦枝 83 戒め 新井幸美
84 恐竜のタマゴ 小森千穂 85 川嶋杏子
86 小野寺信子 87 モデル 村上友子
88 乳揉み 太秦映子 89 書斎 藤森深紅
90 尾賀サツキ 91 木犀 川上進也
92 せんろ道 日向野フミ 93 失調症時代 荒井 郁
94 山釣り 根本洋江 95 船戸山 光
96 肌色のクレヨン 木村郁男 97 電車にて すだとしお
98 鯉を釣る少年 道野重信 99 馬と夢とラッキョウと 秋葉信雄
100 トキノシャクトリ虫 芦原修二



あとがき

 一度選んでから迷い続けました。一作づつ読んでいくと、これも入れたいあれも入れたいと考えてしまうのでした。これは私なりの百選なのだと割り切るのに一週間かかってしまいました。
 一章ごとには一作家一作品となっています。その原則を守るのにも苦労しました。五章の始めの五作は現在までの年鑑他薦集の天の作品です。
 作品集になった作品からも選びたいとも思いました。けれど、添野博さんの『我が妻』、蛭沢弘さんの『料理人の天ピン』は、それぞれの本を読むべきだと思いました。それは米岡元子さんの『太陽の子守歌』や小滝英史さんの『笛吹日記 その他』の「笛吹日記」や「透視ノート」についてもそう思ったのです。それは一篇を切り取る事が出来ないと感じているのです。全体を読んで欲しいと思ったのです。
 芦原さんの「斜面高地」のシリーズや「十日余日」についても選びたいという衝動を押さえました。それはそれぞれ本にして欲しいと同時に切り取るべきでないと感じているからです。いずれ芦原さんのいくつかのシリーズが刊行される日がくると思うからでもあります。
 みなさんにはぞれぞれの百選を選んで、自分の本にしてみていただけるといいかとも思っています。
 私が選んだ百選について、ご批判をいただき、その上でもう一度百選を選び直してみたいとも思っています。『百葉』が、短説の歴史や流れを、感じていただけるような作りにしたいと思って作ったのですが、読んでみてそれを感じていただければ幸いです。
 ほんとうにたくさんの作品が書かれきました。こうして読んでみると、それを実感として感じています。その作品の中から主題ごとに選ぶ方法を一度試みたいと思っています。

平成十五年六月(すだとしお)




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