短説への招待/芦原修二
フランス語版(大井正博氏訳)
短説への招待/芦原修二(日本語原文)
「短説」は、800字で書かれた小説(英文学におけるノヴェル、仏文学でのヌヴォーロマンに近いもの)です。日本語の場合、文字の形状から、800とか1000字等と、正確に量がはかれます。しかし、文字の幅が各々違い、一語の文字数も区々な欧文では不可能です。そこで欧文での「短説」は、1ページ、あるいは1コラム量の作品と規定します。しかし、これを単に「ごく短い小説」といっては、小説の概念になじみません。それゆえこれに『短説』という新しい名をつけました。
『短説』の散文芸術における位置は、韻文芸術における『俳句』のようなものです。実際上も『短説』は俳句から多くのものを学びました。たとえば『短説』を発表する一つの場であり、また合評の場でもある「座会」は、俳句会に範をとりました。
『短説』は1985年の秋、日本に生まれた新しい文学です。しかしその本質は日本の伝統文学につらなります。たとえば古典の『今昔物語』や『伊勢物語』、近、現代文学なら柳田國男の『遠野物語』や、稲垣足穂の『一千一秒物語』といった作品に通底します。世界的にはコントやショートショートにつらなります。しかしそれらとの決定的な違いは、長さをはじめから限定し、その制限の中で現代文学を創造しようとした所にあります。
『短説』の文学運動を振り返り、いま言えるその特徴は、少数者に独占されてきた小説の創造を一般の人々に解放したことです。小説を書くとは結局、自分とは何か、自分をとりまく世界とは何かを考えることにつきます。その方法を独占者から奪取し、誰でも自由に参加できるようにしたのが『短説』です。
『短説』は小さい存在ですが、一本の百合の花がそうであるように宇宙を含みます。
〔初出〕平成12年(2000)1月号「短説」(通巻174号)
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